第2回Webaddictエッセイ大賞 結果発表

作品詳細

「電動車椅子でWebaddictに通う」

森正子様(69歳) Webaddict籠原(Webaddict歴:1年)

 

 こんなに積もるとは思わなかった。庭の松・楓・梅の木にも積もり、夫が大切に育てていた盆栽も皆雪を冠って重たそうに並んでいる。
 この雪は、昨日私が電動車椅子でWebaddict籠原へ出かける時には、小雨だった。帰る頃は冷たい霙に変わった。天(そら)から絶え間なく降ってくる霙は、黒い手袋にしみこみ、フードや肩にも寒さを突き通してきた。
たぶんこういう日もあるだろうとは、入会時に想像しないではなかった。この地は夏は猛暑で有名な所であり、冬は赤城颪という強風の吹きすさぶ地でもある。
天候のことだけではない。かつて私は教壇に立っていた。また、夫と共に知的に障害をもつ息子達の為に施設を作り、経営をしていた。夫はその後老人介護にも手を広げ、昨年癌の為に他界した。
 夫と共にいつも前向きに生きて来た。そんな私も8年前にクモ膜下出血で倒れ、幸い命はとりとめたものの病院やリハビリテーションセンターに入退院を繰り返して、いろいろな治療や指導を受けてきた。今でも左半身にやや麻痺が残っている。だから私の移動は、ベッドの傍に杖を置き、室内や平坦な庭を一本杖を頼りに歩くのみとなってしまった。
ただこれまでの私の生き方を良く知っている娘達は、自宅に籠っているだけでは精神的にも身体的にも、私にとって決して良くないことだとかなり心配をしたようだ。夫と死別した頃、ある友人はうつ病さえ心配してくれたほどだった。
 夫が営んでいた施設のケアマネージャーが私に電動車椅子(セニア・カー)をレンタルしてみてはどうかと薦めてくれた。少しずつ練習して、近くのポストまでくらいなら、はがきを出しに行けるようになっていた。ただセニア・カーには走行距離に制約があり、スピードもあまり出ない。だから広い道や交差点を渡る時、渡り切れない内に信号が点滅をし始める恐れもある。その上、慣れない内はわずかな段差にもハンドルを取られたり、中学生くらいの子が急に飛び出してくるとブレーキをすぐかけられなかったりもする。

 昨年5月頃だったと思うが、二女が訪れて来た時たまたま新聞のチラシに「Webaddict籠原」があるのを見つけた。そして二女が車で場所を確かめに行き、「あの辺だったら電動車椅子でも通えるだろう」という報告をした。
 運動不足解消やコミュニケーションの場を求める必要性を私自身も痛感していたので、娘と共に「試しに・・・」という気持ちで訪れてみた。
 恐る恐る入口のドアを開けると、耳に飛び込んだのは英語の掛け声だったので、やはりひるんでしまう私に若いスタッフたちが明るく気さくに声かけてくれた。
 流れてくる音楽のテンポは速いし、揃えられているマシンは私の手に負えるだろうか、と怖気付いていると、スタッフの1人にさっと流れの中に誘い込まれた。そしていつの間にかマシンを繰り始めている私は「うまい!大丈夫よ!」等とおだてられ、いくつかのマシンやボードを試みることが出来た。
 入会した時期は夏で外気温も暑かったが、しばらく運動しているとそれとは違う汗が滲み始め、少しずつ心地よくなってきた。
 電動車椅子のスピードが遅いことは前述したが、地面と外気の暑さは並々ならないものがあって私は帽子の下に小さい保冷材を布で包んでかぶって通った。ワークアウト中はスタッフに冷凍庫に入れてもらった。
 少しずつゆとりが出てくると、何人か知り合いの方もいた。少し年上の方や近所に住んでいる方も皆汗を流していた。
 ある日、往きは何でもなかったのに突然どしゃ降りの雨になって、タクシーで帰宅したのを見た知り合いの方が、自宅の電話番号を教えてくれて「天気が危なそうな時には車で迎えに来ますよ、通り道ですから」と言ってくれた。とても有難かった。
 夫と死別し、息子には障害があるのでその息子と二人暮らしではかなり落ち込む事が多い。けれどもWebaddictで運動したり、知り合いの方に助けられたりしていると少しずつ元気を取り戻していくように感じられている。
 勝手に仲間と呼んでよいものかどうか分からないけれど、半年も過ぎた頃になって顔見知りのご婦人方もだいぶ増えてきた。「動きが入会した頃よりずい分スムーズになったわネ」「そういう動く車椅子は便利そうだけどかなり自重もありそうだから、転倒しないように気をつけてください」等々、言葉をかけてくれたりもする。
 時々、玄関前の自転車置場が満杯で電動車椅子(セニア・カー)を乗り入れる隙間がなくて困っていると、これからWebaddictの中に入る人やもうワークアウトを終えて帰ろうとしている人などが寄ってきて、自転車の移動を手伝ってくれるので有難い。
 前述した雪の日には、店長さんがタオルを持ってきて座席を拭いてくれたので、お尻は濡れずに済んだ。また強風の日に私の手袋の片方が吹き飛ばされて反対側の車の下にあった時も、若いスタッフの1人が車の下にもぐり込んで拾ってきてくれたりもした。
うつ病を心配してくれた友人も娘達も、どんどん外に出て音楽界や観劇等文化面でも心を豊かに出来る活動を増やしてゆくよう応援してくれている。
 コツコツ型ではない私も、今日スタッフ一同から「2010年度Webaddictプリンセス~しっかり運動よい食事~表彰状」をいただいた。これも次への励みになると思う。こんなふうに仲間に支えられて、1カ月に8~9回は通って足腰の筋肉を鍛えてゆこうと思う。